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香りの世界で動物の犠牲は時代遅れ?! 動物性香料総まとめ!

香りの世界で動物の犠牲は時代遅れ?! 動物性香料総まとめ!

動物の香りは魅惑的?

マリリン・モンローが愛用していたと言われる香水「シャネルN°5」(創作:1921年)。ココ・シャネルの87歳の誕生日に発売された「シャネルN°19」(創作:1970年)。そして「シャネルN°5」に影響されたといわれるランバンの「アルページュ」(創作:1927年)や、ジャンパトゥの「ミル」(創作:1972年)。

ハイブランドが生み出した、これらの香水の共通点は何でしょうか。

 
 
 
 
 
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“In Grasse, this unique jasmine is destined for a unique fragrance: the N°5 Parfum.” #StayHome #IAmACHANELFlower #CHANELParfumeur

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それは、「麝香(ジャコウ)」を原料としていることです。

香りの世界では、「ムスク」と呼ばれるこの原料。実は雄の麝香鹿(ジャコウジカ)の生殖腺囊から採られています。

「香水に鹿のアソコを使っているなんて!!」

と思われるかもしれませんが、この原料をアルコールなどで1000分の1倍に薄めて、他の香原料とあわせると、調合した香りを、重厚感のある熟成したものに変貌させるため、香水の世界では格別の存在です。また麝香は沸点が高く揮発しにくい性質から、香りを長持ちさせるためにも使われます。こうした性質から、お線香やお香では「保香剤」に分類されています。

愛され続けた動物由来の香り

「においの歴史」を辿ると、紀元前3000年頃まで遡ることができます。宗教的儀式や防腐・防臭効果、献上品、あるいは上流階級の贅沢品として様々な役割を担ってきました。

「美しさ」を形成する要素として「動物のにおい」が利用されてきたことも見逃せません。クレオパトラが「香り」を溺愛していたことは有名ですが、古代エジプトの女性は体のにおいを際立たせるために、動物脂を体に染み込ませていたと言われています。また古代中国では、5世紀頃から線香や薫香の原料として麝香が使われており、楊貴妃(8世紀)は、そうした香料を服用することで体内から魅惑的な香りを漂わせていた、という説もあります。

そして1920年代。ココ・シャネルにより「匂いを装う」ことがファッションアイテムの一つに築き上げられました。冒頭であげた「シャネルN°5」には、麝香以外にも麝香猫(ジャコウネコ)や抹香鯨(マッコウクジラ)に由来する動物性原料が配合されています。動物性の高級な原料を使用することにより、模造を防ぐ意図もあったようです。

香水の動物性原料について

さて、香水産業の原料は、大きく分けると天然香料(天然物)と、人工的に作られた合成香料(芳香性の強い分子)があります。19世紀末頃に合成香料の導入が進むと、近代香水の幕開けとも言える香水産業の革命が起こりました。産業革命の流れによって様々な香水が安価に手に入るようになり、今日の市場に出回る香水のほとんどが合成香料をもとに製造されるようになりました。

その一方で、古くから、ジャコウジカのように「香りのため」に人間に利用され、犠牲になった動物たちがいます。現在では、1975年に発効された商業的取引を規制するワシントン条約(日本は1980年に締結)により保護の対象となったことや、希少価値のため価格が高騰し安易に手に入れられなくなったこともから、香水産業において動物由来の天然香料が使われることはほとんどありません。

また香料化学者たちはワシントン条約発足以前から、需要が高く貴重な香料である麝香を人工的に再現するため、長年にわたり研究を続けてきました。そして長い月日を経てついに、同じ香調をもつ原料を動物を殺さずに人工的に生み出すことに成功したのです。(化学者レオポルト・ルジチカは、1939年ノーベル化学賞を受賞しています。)

動物性香料は4種類

香りの世界では動物性の香料を「アニマルノート」といいます。この「アニマルノート」に属するものは、以下の4つです。

ムスク(麝香)
シベット(麝猫香)
カストリウム(海狸香)
アンバーグリス(竜涎香)

それでは、一つづつ見ていきましょう。

ムスク:麝香(ジャコウ)

狩猟したジャコウジカの臓器を切り取って乾燥させたものが麝香(ムスク)です。チベットやネパール、中国広東省などに生息する雄のジャコウジカの香囊から採取します。秋の発情期が狩猟シーズンで、1頭のシカから得られる麝香は約30g。市場で売るにはあまりにも少ない量です。また生薬(※2)としても利用されていたため、ジャコウジカは人間の手により乱獲されました。

残念なことに、現在ジャコウジカは絶滅危惧種に認定され、ワシントン条約によって国際的な保護の対象となっています。そのため天然物の売買は厳しく取り締まられています。こうした動物保護という倫理上の問題もあり、現代では天然のムスクが香水製造に使われることはほとんどありません。

ちなみに麝香の「麝」という時は、「芳香を放つ鹿」という意味の会意兼形成文字だそうです。もちろんその香りは人間のためのものではありません。

シベット:霊猫香(レイビョウコウ)

インドやエチオピア、ギニアなど各地に生息する猫科の小動物、ジャコウネコの肛門のそばにある、分泌腺囊の分泌物がこの香りの原料です。ジャコウジカと異なり、香料は雄と雌の両方から採ることができます。

野生のジャコウネコを捕獲することは難しく、伝統的な方法では、飼育したジャコウネコを檻に入れ、自然に分泌されたものを採取していました。過剰なストレスで分泌物が多く排出されるため、檻をたたいて威嚇してから採取していました。糞が大変臭うため、扱いには技術も必要とされたようですが、現代では「シベトン」と呼ばれる合成香料が主流となっています。

また歴史を遡ると、1630年にチャールズ1世が課した税金により石けんが高価になった際に、紳士たちはきつい体臭を隠すためシベットを使い出すようになります。そしてシベットのやや攻撃的な香りは紳士には欠かせないアイテムになります。18世紀、ヨーロッパではシベットが大流行したこともあり、おそらくその噂を聞いたであろう当時の八代将軍徳川吉宗は、鎖国令下で唯一交流があったオランダからジャコウネコを取り寄せています。

※彼らの糞から採取するシベットコーヒーは、インドネシアの名物として有名です。

カストリウム:海狸香(カイリコウ)

カナダに生息するビーバーの肛門ちかくにある分泌腺囊から香囊を採取します。ジャコウネコと同様に、雌と雄の両方から採れます。香りの持続性向上に優れていますが、現代では合成香料が主流のため、天然物はほとんど使われていません。

アンバーグリス:竜涎香(リュウゼンコウ)

マッコウクジラ(抹香鯨)の腸内から、生理現象によって排出される結石(病的分泌物)のことを言います。古くから香料の至宝とも呼ばれ、海岸に流れ着いたロウ状の塊(結石)は、古代中国において神秘的なものとして扱われたことから「竜の涎(ヨダレ)の香り」と名付けられました。またパールを形成する現象にも似ているため「マッコウクジラの真珠」とも呼ばれていたそうです。

アンバーグリスの正体は長く不明のままでしたが、捕鯨の際にクジラの体内から採取されたことで、その正体が明らかとなりました。その後各国で捕鯨が禁じられたため、入手が困難となり、現在ではアンバーグリスの天然物は香水の原料の中で最も高価(金の10倍以上)なものに位置付けられています。

ちなみにこの結石は、海面を浮遊する時間が長いほど美しい黄金色になり、よりまろやかな香りを放つため、解体されたクジラから採取されたものは、価値が低いとされています。

その他

アニマルノートには属しませんが、ヴィーガンの視点では、香料の一つであるミツロウも外せません。蜂蜜に似た甘い香りから、フローラル系や動物系の香りとも相性が良く、保湿性や防水効果もあるため、数多くのケアアイテムやコスメアイテムに配合されています。

また香水ではありませんが、フレーバーには、畜肉や乳製品、魚介類などを原料にしたものが数多くあります。

まとめ

天然物である動物由来の香料は、1975年に発効されたワシントン条約や捕鯨の禁止、倫理的な面により、入手困難となりました。また当初は利益(量産)目的であった化学の発展によって、動物性香料に似た成分は人工的な合成香料に置き換えられるようになりました。こうしたことから現代では、天然の動物性原料の使用は香水製造において皆無になっています。

しかし香水選ぶ際は、製造する企業自体が「動物実験をしていない」=「クルエルティーフリー」であるかどうかも忘れてはいけません。企業としてそうした取り組みをしているかどうか見分けることも重要なポイントになるでしょう。

もしヴィーガンの香水に興味がある方は、ぜひこちらの記事も参考にしてみてください。

※1 漢方の世界では、芳香開竅薬(ほうこうかいきょうやく)とも呼ばれ、意識覚せい剤や強心剤、解毒剤などの原料にされていました。

【参考文献】
ロジャ・ダブ著 監修=新間美也「香水の歴史」原書房 2010年

長谷川香料株式会社著「香料の科学」講談社 2013年

監修=香老舗松榮堂「日本の香り」平凡社 2005年

愛知県線香卸商組合編「お香と線香の教科書 お香マスターが答えるお香の疑問70」三恵者 2015年


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